躍進した乳がん治療

F. J. エステバ(テキサス大学)
G. N. ホルトバージ(テキサス大学)
200810

日経サイエンス 2008年10月号

9ページ
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 北米でも日本でも乳がんは女性に最も多いがんだ。男女合わせた死亡数は,米国では肺がんに次いで2位,日本では4位を占める。 しかし肺がんとは異なり,乳がん患者の生存率は過去10年間に飛躍的に上昇した。背景には検診の普及による早期発見,早期治療とともに,乳がん研究の大幅な進展がある。研究が進み,治療の選択肢も広がったおかげで,患者に合わせてさまざまな治療法を組み合わせて使えるようになった。
 さらにこの10年で,がん細胞に含まれる特定の分子を狙い撃ちする治療薬も登場した。その代表が,初の分子標的医薬として1998年に米国で認可されたトラスツズマブ(ハーセプチン)だ。日本でも2001年に承認され,今年2月には手術後の補助化学療法としても保険が使えるようになった。
 ハーセプチンは乳がん細胞を急激に増殖させるHER2(ハーツー)というタンパク質を集中的に攻撃する。乳がんにはいくつか種類があるが,HER2を過剰生産するタイプは治療が難しいとされてきた。ところが近年,ハーセプチンをはじめHER2を攻撃する薬がいくつも開発され,このタイプは最も予後が良好な乳がんと考えられるようになった。HER2以外にも,インスリン様増殖因子1(IGF-1)や腫瘍の血管新生にかかわる分子といったさまざまな分子をターゲットに新薬開発が進められている。
 使える薬の種類が増えれば,組み合わせのバリエーションも豊富になり,がんの特徴や患者の置かれた状況に合わせて治療法を選べるようになる。外科手術や放射線療法の進展とも相まって乳がんは本格的なテーラーメード治療の時代に入った。