激痛の原因を探る 片頭痛の新薬を目指して

D. W. ドディック(メイヨークリニック)
J. J. ガーガス(カリフォルニア大学)
200811

日経サイエンス 2008年11月号

9ページ
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 片頭痛は世界で3億人を悩ませる慢性疾患だ。1997年に日本で行われた頭痛に関する大規模な疫学調査(対象約4万人)では,日本人の8.4%が片頭痛患者と推定される。月に1〜2回の頻度で激しい痛みに襲われる人が多いが,頭痛が4日間も続いたり,1カ月の半分は痛みに苦しむという人もいる。また患者の約3割は,頭痛が起きる前に光のちらつきや幻視などの前兆を経験するという。
 片頭痛の原因をめぐってはいくつもの仮説があるが,最近の研究から2つの説が有力視されている。1つは大脳皮質のニューロン(神経細胞)の活動の異常に焦点を当てた「皮質犯人説」。ニューロンの過剰な興奮とこれに続く抑制状態が波のように皮質を伝わる。この現象を「皮質拡延性抑制」と呼ぶが,この波が皮質を横切るように移動するのにともなって,ニューロンを制御するイオンや神経伝達物質に乱れが生じるという考え方だ。片頭痛の前兆として表れる幻視は,波が皮質の視覚領域を通過する際に起こると説明できる。
 もう1つは脳幹のニューロンの活性異常や不調を原因とみる「脳幹犯人説」だ。患者の脳スキャンの結果,脳幹の中でも特に,青斑核,縫線核,中心灰白質の3つの場所のニューロンが,片頭痛の発作時と発作後に活性化されることがわかった。これらのニューロンの活動が皮質(場合によっては皮質下)での拡延性抑制が引き起こすと考えられる。
 いずれの説でも,発作に「拡延性抑制」がかかわっていること,その結果として三叉神経系が刺激されて痛みを感じることは共通しているため,この2つをターゲットにした治療薬や予防薬の開発に焦点が当てられている。特に注目されるのは,三叉神経が放出する痛みの伝達物質「カルシトニン遺伝子関連ペプチド」や神経伝達物質を標的にした新薬だ。現在,片頭痛の薬として広く使われているのは高血圧やうつ病,てんかんの治療薬だが,片頭痛を引き起こすメカニズムがわかってきたことで,より効果が高く,副作用の少ない薬が誕生するはずだ。