生まれつつある海

E. ハドック(写真家・リポーター)
200901

日経サイエンス 2009年1月号

8ページ
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 エチオピア北東部,地球で最も乾いた砂漠の1つが,新たな海になる道を歩んでいる。アフリカ大陸のうち「アファール盆地」と呼ばれるこの地域は2方向に引き裂かれて,地殻が徐々に薄くなっている。盆地の下の地殻は厚みがたった20kmで,当初の半分以下だ。そして,盆地の一部は標高が海面下100mに満たない低地。東側の低い丘陵地が,紅海の水が盆地に流れ込むのをかろうじて防いでいる。
 高温の地球内部が近くまで迫っているため,地震と火山,熱水域のダイナミックな景観が生まれた。そうしたプロセスを理解したいと望む私のような人間にとって,アファール盆地はまさにパラダイスだ。しかし,科学者を含め,アファール盆地に足を踏み入れたよそ者はほとんどいない。日中の気温は夏場だと 48℃に達するし,年間を通じて雨はほとんど降らない。しかし,それらよりもはるかに大きな危険にこの地は直面している。始末に負えない地政学的な抗争,つまりエチオピアと隣国エリトリアとの戦争が,こうした自然の困難とあいまって,アファールをまったく住めない場所にしている。
 この土地があと100万年,横に延び続けて沈降すると,紅海から大量の水が流れ込んで,アファールは新しい海の底になると地質学者は予想している。いまのところ,この未来の海底は灼熱の地で,溶岩が植物を窒息させ,地獄の熱が酸を煮えたぎらせ,奇怪な地形が毒の煙を噴き出している。そして,古代に紅海から流れ込んだ水が残した塩の遺産が,アファールの遊牧民に貴重な輸出品を提供している。
 新たな海の形成という地球物理学的な誕生劇の舞台を,写真と記事でリポートする。