ブレイン・マシン・インターフェース
データを脳へダウンロードする

G. スティックス(SCIENTIFIC AMERICAN編集部)
200902

日経サイエンス 2009年2月号

8ページ
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 人間の脳とコンピューターを一体化させ,必要に応じて記憶や外部情報を出し入れできる時代がやって来る!? ──ブレイン・マシン・インターフェース(BMI)の研究はSF小説の世界に現実味が与えるまでに進んできた。やがては,脳を手軽に書き換えられる記憶装置に変え,膨大な情報を自在に扱える時代がくるかもしれない。
 BMIには,脳へ情報を入力するものと,脳から情報を出力するものの2通りがある。近年,飛躍的に進歩したのは「出力型」の研究だ。サルを使った実験では,脳に電極を埋め込み,運動を指令するニューロンの信号を送ることで,ロボットアームを動かすことができる。将来は,脳卒中や筋萎縮性側索硬化症の患者が,麻痺した手足と同じように人工装具を使うことが可能になると思われる。
 一方,脳にプラグを差し込んで外部情報を注入するというシーンは,サイバーパンクSFではおなじみだが,こちらは「入力型」のBMI。音や視覚を使わず,単語や文を直接脳にインプットする。この入力型を実現するには2つの高いのハードルがある。
 1つは,言語のような表現を脳がコード(符号化)している仕組みがわからないことだ。こうした表現にはおそらく脳の広い範囲で多数のニューロンがかかわっているため,一部のニューロンの活動に着目しただけでは神経コードは解明できない。最近では,発火ニューロンを集団として見た場合の時間的・空間的な変化に着目した研究が行われている。
 もうひとつのハードルは,脳に人工デバイスを埋め込むハードの開発だ。脳に“プラグを接続”して,外部情報を送り込むには,記憶を担う脳の海馬を正確に刺激する必要があるが,現時点ではそうした技術は開発されていない。
 マニュアルを脳に入力して,即座にプロ並みの技術を習得したり,海外旅行の前夜に外国語会話をマスターするといったことが可能になるかどうかはまだわからない。しかしBMIの研究にともなって脳の解明が進み,新しい人工デバイスが誕生すれば,病気の治療や教育プログラムの作成など,さまざまな分野に恩恵をもたらすだろう。