驚きの小型NMRスキャナー

B. ブリューミッヒ(アーヘン工科大学)
200902

日経サイエンス 2009年2月号

8ページ
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 あなた自身かもしくは知人の1人くらいは磁気共鳴画像(MRI)装置で内臓疾患の診察を受けたことがあるだろう。部屋いっぱいを占めるMRI装置のドーナツ形の磁石の中に横たわっていると,窮屈で閉所恐怖症にでもなりそうなストレスを感じるかもしれない。だが,その結果得られる体内組織を映し出した明確な画像には,どんな恐怖をも埋め合わせる診断価値がある。
 このMRI装置と同様の原理に基づく核磁気共鳴(NMR)装置は,より一般的な分析装置で,やはり多大な恩恵をもたらしている。研究対象となる物体を物理的に破壊することなく,材料の化学組成や,タンパク質をはじめとする重要な生体分子の構造を特定できるのだ。
 だが,そうはいっても,医師や科学者は長らく実験室の外で使える持ち運びが可能なNMR装置を求めていた。たとえば,救急車にヘルメット形のMRIスキャナーを装備すれば,脳卒中患者を病院へ急送している車内で患者の脳内にある血栓の位置を特定できるかもしれないし,色素の化学組成を識別できる携帯 NMRがあれば,鑑定士が美術館や画廊にある歴史的名画と真新しい贋作とを見分けることができるかもしれない。医師や科学者はこうした未来を思い描いていた。
 彼らにとっては,SFドラマ『スター・トレック』でおなじみの万能“トリコーダー”を作ることなど夢のまた夢だった。だが,1993年になって,当時ドイツ・マインツにあるマックス・プランク高分子研究所に所属していたブリュムラー(Peter Bluo¨mler)と私は,ポータブルなNMR装置を目指し,ささやかな一歩を踏み出した。私たちの努力はやがて小型の材料分析装置として実を結び,研究現場で活躍する研究者にすばらしい結果を提供できるようになった。以降,ようやく芽が出始めたこの“モバイルNMR”の研究に取り組む人たちは,初期のアプローチをさらに発展させ,ますます強力な解析能力と撮像能力を詰め込んだ,さまざまな技術開発を進めている。