ノーベル賞受賞記念
対称性の破れが生む多様性

中島林彦(編集部)
協力:初田哲男(東京大学),橋本省二(高エネルギー加速器研究機構)
200905

日経サイエンス 2009年5月号

16ページ
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 100年を超える伝統を持ち,80人以上のノーベル賞受賞者を輩出したシカゴ大学。キャンパスの歴史的ホールで2008年12月10日,ストックホルムでの授賞式を欠席した南部陽一郎同大学名誉教授へのノーベル物理学賞の贈呈式が行われた。駐米スウェーデン大使のホフストレム氏からメダルと賞状を手渡された南部氏はスピーチで受賞業績の「対称性の自発的破れ」について語った。
 「本来,理論的には質量ゼロである素粒子が質量を持ち,しかも種類によってその値はバラエティーに富む。なぜ自然界はかくも複雑で豊かな多様性を持つに至ったのか? それをもたらしたのが対称性の自発的破れだ」
 対称性の自発的破れは素粒子クォークどうしを結びつける「強い力」の理論である量子色力学と密接なつながりがある。この量子色力学の基本概念を提唱したのも南部氏で,これもノーベル賞級の業績だ。
 南部氏のこうした研究の原点には,日本人で初めてノーベル賞を受賞した湯川秀樹(ゆかわ・ひでき)の中間子論がある。中間子論を出発点に,どのようにして対称性の自発的破れと量子色力学が発想され,それが最先端の素粒子物理学や原子核物理学,宇宙物理学,計算科学とどのように結びついているのか,東京大学の初田哲男教授と高エネルギー加速器研究機構の橋本省二准教授の協力を得て,その流れを展望する。