暗黒エネルギーは幻か?

T. クリフトン
P. G. フェレイラ(ともにオックスフォード大学)
200907

日経サイエンス 2009年7月号

9ページ
( 5.6MB )
コンテンツ価格: 611

 宇宙は膨張している。これは1920年代に米国の天文学者ハッブルの観測で明らかになった。以来,宇宙膨張は減速していると考えられてきた。物質の重力によってブレーキがかかるので,膨張速度は徐々に小さくなると思われたからだ。
 しかし,1998年の超新星の観測が宇宙論に新たな革命をもたらした。宇宙は加速膨張していると結論されたのだ。ならば,膨張を加速させる何かが空間を満たしているはずだ。それはやがて「暗黒エネルギー」と呼ばれるようになった。
 加速膨張の発見から10年以上が経過したが,暗黒エネルギーの正体は依然として謎のままだ。そこで,超新星の観測結果から加速膨張を結論したプロセスに何かしら誤りがあるのではと考える研究者もいる。彼らが特に疑問視するのは,地球は宇宙の中心ではないし,宇宙において特別な場所でもないという「コペルニクスの原理」だ。
 もし私たちの銀河が巨大なボイド(他の領域と比べて密度が1/2や1/3の領域)の中心付近という“特別な”場所に位置しているなら,暗黒エネルギーを持ち出さなくても,超新星の観測事実を説明できるという。宇宙は全体として減速膨張しているが,私たちの周囲は他と比べて物質が少なくブレーキが弱いため,膨張速度は大きい。膨張速度の場所ごとの違いが,加速膨張として誤って解釈されているというのだ。
 こうした宇宙ボイド仮説の可能性はないというのが大多数の見方だ。だが,暗黒エネルギーも似たり寄ったりだと著者は主張する。加速膨張説と宇宙ボイド仮説のどちらが正しいか,近い将来,観測で決着がつくだろう。

再録:別冊日経サイエンス196「宇宙の誕生と終焉 最新理論でたどる宇宙」