サイレント変異
小さなDNA変化が病気をもたらす

J. V. カマリー(サイエンスライター)
L. D. ハースト(英バース大学)
200909

日経サイエンス 2009年9月号

9ページ
( 5.0MB )
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 できあがるタンパク質は同じはずだから,病気などに関係するはずはない──長い間,そう信じられてきたのが「サイレント変異」。遺伝子の塩基の文字が別のものに変わっても,指定するアミノ酸には変化がないタイプの変異のこと。1つ塩基が変わっただけでアミノ酸が別なものになってしまい,命にかかわるような病気を引き起こす例はたくさん知られている。だが,サイレント変異では指定されるアミノ酸が同じだから,できあがるタンパク質も同じになるはずで,何の影響もないと素朴に信じられてきた。
 ところが,最近になって,サイレント変異が病気の原因になっていることを示す例がたくさん報告されている。しかも,「なぜ,そうなるか?」のメカニズムは一筋縄ではいかないらしい。核の中にある遺伝子の情報を写し取って,細胞質へと移動するmRNAが作られる過程に影響している場合もあれば,mRNAの構造が変わってしまって,ほどけにくくなり,タンパク質合成に役立たなくなる場合もある。
 遺伝子の塩基配列が,その発現にこれほどまでに密接にかかわっているとは,ほんの10年ほど前まではほとんど誰も想像していなかった。