スピンで走る
超高速レーストラックメモリー

S. S. P. パーキン(IBM)
200909

日経サイエンス 2009年9月号

7ページ
( 2.7MB )
コンテンツ価格: 611円 (10%税込)

 大容量のデータ記録技術は,インターネット時代を花開かせた陰の立役者だ。だが現在の技術はどれも一長一短。ハードディスクは大容量記憶できて安いが,書き込み・読み出しに時間がかかり,クラッシュの危険もつきまとう。DRAMは書き込み・読み出しは速いが,電源を落とすとデータは消える。フラッシュメモリーは速度は今ひとつだし,あまり頻回に書き込むと壊れてしまう。これらの技術を「いいとこ取り」する新たなメモリーとして期待されているのが,IBMが開発を進める「レーストラックメモリー」だ。金属製のナノワイヤに,ハードディスクと同じように,磁気を用いてデータを記録する。ハードディスクではデータにアクセスするためにディスクを回転させているが,レーストラックメモリーでは記録したデータそのものがワイヤの中で前後に動くので,ワイヤの横に固定した磁気ヘッドで読んだり書いたりできる。可動部分がないのでクラッシュせず,動作も半導体メモリー並みに速い。ワイヤをチップ状に垂直に立てれば3次元記録が実現でき,超大容量化も実現できるという。IBMは実用化をめざし,試作を重ねている。