脳はなぜ左右で分業したのか

P. F. マクネレージ(テキサス大学オースティン校)
L. J. ロジャーズ(豪ニューイングランド大学)
G. バロティガーラ(伊トレント大学)
200910

日経サイエンス 2009年10月号

9ページ
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 言語中枢は左脳,情感は右脳というように,ヒトでは大脳半球が左右で分業体制をとっている。こうした分業はヒトだけの特徴だと長い間,思われてきた。その背景にあるのは,「人類は特殊な進化を遂げてきた」という思い込みだ。
 これまでの考えによれば,大脳の左右の分業は,約250万年前の人類の祖先が道具を作り始めたところに起源があるという。道具を作り,使うために手の複雑な動きの制御が必要となり,右利きが進化してくる。利き手が手振りによるコミュニケーションを担うようになり,それが会話へと変化していったというのだ。右手の動きもを制御しているのが左脳だから,会話も左脳が司るようになったと考えるのだ。この考えでは,ヒトの祖先がチンパンジーなどの祖先と分かれた後に,右利きが進化したことになる。
 だが,ほかの哺乳類や鳥類,カエルなどの研究から,こうした考えは誤りであると著者たちは考えている。そうではなく,脊椎動物では「パターン化した日常的な行動」を左脳,「天敵に出くわすなど突然の場面での行動」を右脳がコントロールするようになり,それがヒトにも受け継がれたのだという。著者たちはこの仮説を,それを裏付けるたくさんの事例とともに紹介する。