月に行った科学者が語る火星への道

H. H. シュミット(米航空宇宙局)
200910

日経サイエンス 2009年10月号

10ページ
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 冷戦時代,米ソで始まった有人宇宙開発は日本や欧州,中国が加わるなど,すそ野が広がってきた。しかし,地球からの到達距離で考えれば,現状は40年前と比べて大きく後退したままだ。約40年前,アポロ計画の宇宙飛行士12人が月に降り立ったが,以降,月への再訪はない。しかし今,米国,ロシア,欧州が2030年代の火星有人探査を検討するようになり,その前段として月の有人探査もスケジュールに上がってきている。
 月と火星には多数の無人探査機が送り込まれているが,無人探査と有人探査では輸送手段も探査の仕方もリスクもまったく違う。火星の有人探査を考える場合,参考になるのは地球以外の世界での有人探査の先例,つまり月の探査だ。
 月に降り立った12人のほとんどは軍出身のパイロットだったが,その中にただ1人,地質学が専門の科学者がいた。それが著者だ。著者は月でのフィールド調査の体験をもとに,火星に降り立つ調査隊が経験するであろう状況や,探査を成功させるためのノウハウや注意点などをつづっている。
 著者は火星探査のほうが月探査より容易かもしれないとみている。著者は言う。「探査機からの画像を見ると,多くの岩石表面には,風に舞い上げられた細かい塵によって,(月における)宇宙風化と似た薄層が形成されている。しかし,風によって塵の薄層がたびたび吹き飛ばされて岩石表面が露出するため,鉱物の特定作業の大きな妨げにはならないだろう」。