相対論と量子論をつなぐブラックスター

C. バルセロ(スペイン・アンダルシア宇宙物理学研究所)
S. リベラーティ(イタリア・トリエステ国際高等研究所)
S. ソネゴ(イタリア・ウディネ大学)
M. ヴィッサー(ニュージーランド・ビクトリア大学)
201002

日経サイエンス 2010年2月号

9ページ
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 アインシュタインの一般相対性理論が予言する時空の構造「ブラックホール」は,今や誰もが知る存在となった。ブラックホールに落ちたら最後,そこから脱出することはできず,こっぱみじんにされてしまう。しかし,一般相対性理論はブラックホールを記述するには不完全であることがわかっている。この理論に従うとブラックホールの中心に時空の曲がり具合が無限大の「特異点」が存在することになるが,特異点では理論が破綻してしまうからだ。
 破綻の原因はミクロレベルで重要になる量子効果を考慮していないためと考えられている。しかし,量子重力理論が完成していない現状では,量子効果を部分的に取り入れた半古典重力理論に頼るしかない。1970年代,ブラックホールに対する量子効果を検討したホーキングは,ブラックホールが粒子を放射してゆっくり蒸発することを示した(ホーキング放射)。今日では多くの物理学者が,ブラックホールは一般相対性理論で記述される通りに形成され,その後ホーキング放射によってゆっくり蒸発すると考えている。
 だが,半古典重力理論が量子重力理論のよい近似といえるかどうかは不明だ。ブラックホールの形成・蒸発シナリオを疑問視する研究者もいる。著者らは,「真空偏極」と呼ばれる量子効果が十分に大きければ,ブラックホールの形成が止まり,代わりに「ブラックスター」が形成される可能性があることを示した。ブラックスターは物質でできた殻が同心円状に重なったタマネギのような構造をした天体で,内側ほど温度が高い。とはいえ,ブラックスターは非常に小さな高密度の天体なので,観測される多くの性質はブラックホールに似ている。ブラックホールだと思われている天体のいくつかは,実はブラックスターである可能性もあるのだ。
 量子効果を考慮してもやはりブラックホールは形成され,そして蒸発するのか。あるいは,ブラックスターなどブラックホール以外の天体も存在しうるのか。こうした問題への取り組みを通じて,まだ見ぬ量子重力に近づけるかもしれない。

再録:別冊日経サイエンス196「宇宙の誕生と終焉 最新理論でたどる宇宙」