象牙の密輸をDNAで追え

S. K. ワッサー(ワシントン大学)
B. クラーク(国際刑事警察機構)
C. ローリー(ワシントン大学)
201004

日経サイエンス 2010年4月号

10ページ
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 アフリカで,象牙目的のゾウの密猟が後を絶たない。象牙の価格はここ15年で急騰し,最近の中国当局の発表では,小売り価格にして1kg当たり6500ドルに達した。象牙の国際取引は1989年にワシントン条約によって禁止され,いったん密猟も幻想したが,象牙価格の上昇と処罰される危険の低さから,密輸とそれに伴う密猟は,近年再び増加している。2006年には世界で25トンの密輸象牙が押収され,著者らの推計に基づけばおよそ3万8000頭,全体の 8%が殺されたという。
 著者らはアフリカ全土のゾウの糞からDNAを抽出。その特徴を解析し,アフリカ全土のゾウDNAマップを作成した。押収された密輸象牙のDNAを解析してマップと照合し,どこで密猟されたかを突き止める技術を開発した。2002年にマラウィか南アフリカ経由でシンガポールに密輸された532本の象牙と4 万2000個の象牙の印材をこの手法で解析したところ,いずれもザンビア周辺に生息するサバンナゾウの,特定のゾウ集団から取られたものだとわかった。密猟から密輸までを一貫して手がける,大規模な犯罪組織の存在が強く疑われる。象牙のいくつかには"Yokohama(横浜)"と書かれていた。
 さらに2006年に台湾と香港で相次いで象牙密輸事件で押収された象牙の提供を受けてDNAを解析したところ,タンザニアのセルース猟獣保護区を中心に,北モザンビークのニアサ猟獣保護区にまたがる地域のゾウのものであることが判明した。タンザニアは再び,密猟の温床になってしまったとみられる。
 台湾,香港での摘発とほぼ同時期に,日本の大阪港でも大規模な密輸が摘発され,合計2.8トンに上る象牙と印材が押収された。象牙にスワヒリ語で文字が書かれていることから,同じくタンザニアで密猟されたことが疑われるが,日本の当局がいまだに象牙のサンプルを提供していないため,DNA解析はできていない。
 ワシントン条約締約国会議は,過去2度にわたって,ナミビアやボツワナなど象牙取引の再開を求める国々の1回限りの象牙輸出を認めた。相手国は日本と中国だ。だがこうした取引で合法的な市場ができると,密輸品がたやすく紛れこむ上,人々は象牙の流行は正当なものだと思ってしまう。不法は象牙取引をいますぐに何とかしないと,アフリカから自由に歩き回るゾウは消え失せてしまうだろう。

 *2010年3月にカタールで開かれるワシントン条約締約国会議では,タンザニアとザンビアからの象牙の1回限りの輸出を可能にする申請について議論される見通し。日本の立場と,象牙のサンプル提供をめぐる経緯についても紹介する。