ネットゲーム錬金術の功罪

A. ヒークス(英マンチェスター大学)
201004

日経サイエンス 2010年4月号

7ページ
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 オンラインゲームをプレイして貯めたバーチャルな通貨やアイテムを売ったり,他人のキャラクターを強くするサービスを提供して,リアルマネーを稼ぐ──そんな新産業「ゴールドファーミング」が勃興した。開発途上国を中心に数十万人の雇用を生み出し,年間取引額は10億ドル,利用者は1000万人以上に達するとみられる。
 バーチャル世界で生まれたこのリアルエコノミーは,現実社会の経済発展と同じように,ただし段違いに速いスピードで発展してきた。70年代に始まったプレイヤー間でのアイテムの物々交換が,じきにゲーム内通貨での取引に発展。80年代にこれが現実の通貨による取引に転化し,90年代に個人のオンライン売買を可能にした米ベンチャー企業イーベイの登場などではずみがついた。今では中国を中心に,特定ゲームのスペシャリストを大勢雇用して組織的にバーチャル通貨を稼ぐゴールドファーミング企業が急成長している。自分では一切プレイせず,ゲームのキャラクターを金融商品のように取引するトレーダーも生まれている。アカウントを購入し,ゴールドファーミングを利用してレベルを上げ,強くなったキャラクターを顧客に売って利ざやを稼ぐ。
 もっとも,ゲーム会社は渋い顔だ。現実世界の経済力がゲーム世界でもモノを言い,公平性や面白さが損なわれるとして,ファンが離れてしまいかねない。現実の通貨によるゲーム内通貨やアイテムの売買を禁止し,ゴールドファーマーの活動を妨害する対策を講じているが,排除することは不可能だ。一方でゴールドファーマーが動かしていると疑われたキャラクターが,ゲーム内で嫌がらせを受けることも少なくない。かつてゴールドラッシュの時代に,中国人労働者が受けた扱いと似たところがあり,背景には人種差別があると指摘する専門家もいる。
 ゴールドファーミング企業の労働条件は,欧米先進国から見ると搾取的だが,現地の工場労働者にくらべれば悪くない。経済発展の原動力になるとの期待もあり,地方政府がゴールドファーミング企業を支援していることも多い。だがゴールドファーミングによって真の経済成長を実現できるかどうかは未知数だ。