対談「物理学を認識論にする」

細谷曉夫(東京工業大学)
茂木健一郎(ソニーコンピュータサイエンス研究所)
201004

日経サイエンス 2010年4月号

7ページ
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 今の物理学は,神の目線でできている。宇宙全体をあたかも外から見ているかのように,第三者的に記述する。宇宙物理学者の細谷暁夫は,そこに疑問を投げかける。「我々は宇宙の中にいる。宇宙を外から見るのではなく,まず宇宙を我々という小さな存在と残りの大宇宙とに分けて,その間の相互作用を考えて理論を作るべきではないのか」。
 脳科学者の茂木健一郎氏が,宇宙物理学者の細谷暁夫氏に今の物理学の限界と,その突破口について聞いた。
 神の目線の物理学には,宇宙は実体としてそこに存在し,誰がどこから見ても同じものだという暗黙の了解がある。だが現代物理の根幹である量子力学によれば,それは必ずしも正しくないという。量子力学を出発点にするのなら,神の理論で宇宙を語り,観測した時にどうなるかを考えるのではなく,最初から人間の観測が組み込まれた理論で宇宙を記述すべきではないか,と細谷氏は語る。それは物理学を存在論から認識論に変える試みでもある。その手がかりになると見ているのが,イスラエルの物理学者アハラノフが提唱した「弱い測定」だ。
 聞き手の茂木氏は,今は脳科学者として知られるが,実は物理学の博士号を持つ。物理学の本質と人間の認識とのかかわりを探る,知的興奮に満ちたダイアローグをお届けする。