半導体チップを変える9つのアイデア

SCIENTIFIC AMERICAN編集部
201004

日経サイエンス 2010年4月号

6ページ
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 1975 年にムーア(Gordon Moore)がICチップの集積度が2年ごとに倍になると予言したのはよく知られている。製造技術の進歩によってチップ上のトランジスタのサイズはどんどん小さくなり,情報処理のために電気信号が進まねばならない距離は以前よりも短くてすむようになる。
 この「ムーアの法則」はエレクトロニクス産業と消費者にとって,コンピューター装置がより小さく,より速く,より安くなることを意味した。半導体の設計・製造における絶え間ない技術革新のおかげで,半導体チップは過去35年間,ムーアの法則に驚くほど近い軌跡をたどってきた。
 しかし,ある時点で壁に突き当たることを技術者たちは知っていた。いずれトランジスタの厚みはたったの原子10個分になるだろう。そのスケールでは,物理学の基本法則から来る制限が生じる。また,そうした壁にぶつかる前に,2つの実際的な問題が持ち上がるだろう。高い歩留まり(良品率)を確保しながら,そんなに小さなトランジスタをそれほど密に配置するとなると,製造コストが高くなりすぎる恐れがある。そして,密集したトランジスタがオン・オフを繰り返すために生じる熱によって,素子そのものが焼けついて壊れてしまうだろう。
 実際,そうした困難が数年前から生じている。現在の多くのパソコンが「デュアルコア」チップ,つまり単一のプロセッサーではなく2個の小さなプロセッサーを搭載した設計をうたっているのは,必要数のトランジスタをワンチップに詰め込んだうえでそれを冷却することがあまりに困難になったからだ。コンピューター設計者はそうする代わりに,複数のチップを並べ,それらで情報を並列処理するようプログラムすることを選択した。
 どうやら,ムーアの法則が通用する余地はついに尽き始めているようだ。ではどのようにして,半導体チップの能力をさらに高めていけばよいのか? 別のチップ設計に転換する,あるいは原子1個ずつを操って組み上げられるようにナノ材料を改良するという道がある。さらに,量子コンピューターやバイオコンピューターなど,新たな情報処理法を完成させるという選択肢もある。
 以下に,現在進んでいる一連の進歩を簡単にまとめた。多くは試作段階だが,向こう20年にわたってコンピューター機器が「より小さく,より速く,より安く」という方向を維持し続ける力となるだろう。