「ありえない色」を見る

V. A. ビロック(ゼネラル・ダイナミクス社)
B. H. ツォウ(米空軍研究所)
201005

日経サイエンス 2010年5月号

8ページ
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 「黄緑」や「青緑」という色はあるが,「赤緑」という色はない。人間の視覚は「黄色と緑」や「青と緑」は同時に感じることができるが,「赤と緑」はどちらか一方しか知覚できないからだ。「青と黄色」も同様で,「青黄色」という色はない。このように互いに拮抗する色を「反対色」と呼ぶ。
 ところが最近,ある種の特殊な状況のもとでは反対色が混ざり合った「ありえない色」を見ることができることがわかった。人の眼は一点を見つめている時も小刻みに視線を動かしているが,これを強制的に固定し,隣り合わせに並べた色の領域が網膜上で静止するようにする。すると両者の境界が消え,2つの色が混ざりあう。2色の輝度が等しいと効果は強力で,反対色ですら混ざり合ってしまう。
 これまで,人間の脳が拮抗の仕組みを乗り越え,反対色を同時に知覚することはないと考えられてきた。だが,拮抗の仕組みはもっと柔軟で,一時的に停止することもできるらしい。
眼がある色に慣れると,その色が消えた後に反対色の幻視が起きることは一般によく知られている。赤い閃光に眼がくらむと,それが消えた後に緑の残像が見えたりする。
 こうした現象が,実は形にもあるらしいこともわかった。空白の視野の中で点滅する光を感じると,回るかざぐるまや,振動する同心円が見えることがある。これまで狙った幻視を起こすことはできなかったが,今回,視野の一部で本物のかざぐるまを見ながら他で光の明滅を感じると,同心円の幻視が見えることを見いだした。逆に本物の同心円を見ながら光を明滅を感じると,かざぐるま形の幻視が見える。かざぐるま形と同心円は,ある種の「反対形」だと考えられる。
 通常の視覚の限界を超える幻視を作り出すのは,こうした反対色や反対形の仕組みを解明するのに有効な手段だと考えられる。