対談「細菌によって変わる虫たち」

深津武馬(産業技術総合研究所)
茂木健一郎(ソニーコンピュータサイエンス研究所)
201006

日経サイエンス 2010年6月号

7ページ
( 3.7MB )
コンテンツ価格: 611円 (10%税込)

 ミクロネシアのある島では,ある種のチョウの90%以上がメスだ。実は皆,ボルバキアという細菌に感染している。この細菌に感染すると,オスの卵はみな死んでしまい,メスだけが生き残るので,個体のほとんどがメスになってしまうのだ。ボルバキアはこうした「オス殺し」だけでなく,性転換を起こすこともある。日本にもいるキチョウがこれに感染すると,染色体がオスでも卵巣が発達し,ほかのオスと交尾して子孫を残せるようになる。
 1匹の虫の体の中には無数の微生物がすんでいる。虫と共生するそうした微生物たちは,見えないところで宿主の性質を司っている。微生物に感染することで,虫の食べるものから行動,体の色や性別まで変わってしまうことがあるのだ。
 産業技術総合研究所の深津武馬さんは,そうした共生関係を研究している。共生する微生物の中には,宿主に必要な栄養を供給したり,外敵から身を守る毒を作ってやるものもあれば,逆に宿主を体内から食らい尽くし,殺してしまうものもいる。両者の関係は様々だが,虫のほぼ100%が,共生微生物によって何らかの影響を受けているという。
 ちなみに,「オス殺し」をする共生微生物は知られているが,「メス殺し」をするものはまだ見つかっていない。ちょっと不公平なようだが,実は「オス殺し」は,共生微生物にとっては極めて合理的な戦略なのだ。
 虫と微生物の知られざる共生関係から見えてくる,生物の知られざる一面を明らかにする。