対談「金属に刻まれた古の技術を探る」

齋藤努(国立歴史民俗博物館)
茂木健一郎(ソニーコンピュータサイエンス研究所)
201007

日経サイエンス 2010年7月号

6ページ
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 刀鍛冶は,800℃近くに熱した刀身の,わずか数十℃の違いを肉眼で見分けている。その見極めが,日本刀の刃文に趣の違いをもたらす。
 日本の職人たちが長い歴史の中で培ってきたそのような伝統技術を,科学の言葉で解き明かす。それが国立歴史民俗博物館の科学者,齋藤努教授の仕事だ。
 調べる対象は日本刀のほか,火縄銃や古来の貨幣などの金属製品。今に残る貴重な資料の組織を顕微鏡で調べ,その成分を分析して,どのような工程で作られたのかを読み解いていく。時にはその分析をもとに昔の製品を実際に作り,現代にその技術を蘇らせることもある。
 例えば時代劇などでよく見る黄金色の小判は,中身は案外白っぽいという。時代が下るにつれて,次第に銀を多く混ぜるようになったからだ。だが表面に薬品を塗って銀を溶かし出す特殊な加工をすることで,表面だけは黄金色を保っていたのだという。齋藤教授は,この「色揚げ」技術も再現した。
 最先端の科学分析手法は,歴史学や考古学など,いわゆる文系の研究方法だけではわからない歴史の謎に,新たな光を当てることがある。重要なのは技術に溺れず,資料の歴史的な意味や位置づけをきちんと理解した上で分析することだという。
 日本の歴史において重要な役割を果たてきた様々な金属製品について,その秘められた歴史を明らかにする。