病理診断デジタル時代

M. メイ(科学・技術ライター)
201008

日経サイエンス 2010年8月号

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 病理組織試料を検査するやり方は100年以上も相変わらずだ。遅ればせながら,旧態依然の病理学をリメイクする試みが始まった。
 現在,毎年何億枚もの病理スライドが作成され,昔ながらのやり方で扱われている。組織試料を紙のように薄く切り,特徴がわかるように色素で染色する。病理医はこのガラスのスライドを顕微鏡にセットし,組織が示すさまざまな特徴を探す。例えば乳がんの組織試料なら,切片中の異常な細胞の数や腫瘍の進行度などで,進行度は細胞構造などの特徴に基づいて判断する。
 実際には,病理医はすべてのスライドの全スポットをくまなく見ているわけではない。これに対し,スライドをデジタル化すれば,もっと徹底的に調べられるだろう。コンピューターはすべてのデジタルスライドのピクセル(画素)を1つひとつ調べて解析可能だ。すべての細胞について内部構造と色,テクスチャー,ピクセルごとの明暗など,診断の手がかりを見つけ出して計量できる。病理医が背中を丸めて顕微鏡を覗き込んでも,こうした兆候を評価できるのはごく少数の細胞に限られる。
 コンピューターに頼るといっても,病理医がお役御免になるわけではない。そうではなく,スライドのデジタル化によって,より多くの病理医が診断に参加できるようになり,結果として誤診を避けることができる。
 病理医が診断に際して他の専門家の意見を求めるのはごく日常的な行為だが,現在はガラスのスライドを封筒に入れ,最速の手段で送っても,先方に着くまで 2〜3日はかかる。これに対しデジタル病理学なら,組織画像を電子的に送るか,安全なウェブサイトにアップする(おそらくはこちらの可能性が高い)ことで,ほんの数秒で地球の反対側にいる病理医に相談できる。スライドに関する相談がそれほど簡単に素早くできるのなら,病理医たちはいま以上に十分な協議をするようになるかもしれない。
 より定量的な解析と,より迅速な画像共有による協議──この2つの大きな進展の組み合わせが,病理試料をデジタル化する主な意義となる。その実現には一連の技術的・制度的な問題を解決する必要があり,先駆的なベンチャー企業などがそれに取り組み始めたところだ。