骨粗鬆症治療の意外な盲点

斎藤充
丸毛啓史(東京慈恵会医科大学)
201010

日経サイエンス 2010年10月号

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 骨粗鬆症は,骨がスカスカになって折れやすくなる病気と一般には理解されている。典型的な患者のイメージは,やせ型の高齢女性だろう。やせている人は支えるべき身体が重くないため,太っている人に比べてもともと骨が頑丈になりにくい。さらに女性の場合は閉経を機に,骨を丈夫にする効果のある女性ホルモンの量が急激に下がるため,症状が現れやすい。とはいえ,現在ではよい薬があって,これを飲めば骨密度は高められる。
 だが奇妙なことに,太めで骨密度の高そうな人でもレントゲンを撮ったら,骨粗鬆症で骨折していたという例がある。糖尿病や心疾患などの生活習慣病の患者にこのタイプが多い。また,薬で骨密度を増しているのに,骨折を予防できないケースが半分くらいを占め,臨床医の間では「50%の壁」として知られている。
 なぜ,こんなことが起きるのか?
 従来の骨粗鬆症のとらえ方が,骨密度だけに着目していたからだ。骨折予防を考えるのであれば,骨強度が重要だが,「骨密度=骨強度」では必ずしもない。「骨の密度(=量)」だけでなく,「骨の質」も,骨の強さ,ひいては骨折防止に大いに関係しているのだ。
 臨床医である私たちが発信したこの概念は,内外の複数のグループによる別々の大規模調査でその正しさが認められた。2001年には米国立衛生研究所(NIH)が統一見解として,骨強度に影響を与える因子に骨密度と骨質を掲げるようになった。
 骨の質の重要さは,整形外科の臨床医ならば気がついていたはずだが,質の善し悪しを評価するための物差しがこれまで提唱されてこなかった。2001年の NIHの統一見解以降もこの状況は変わらず,医療現場では従来どおりに骨密度の測定だけに基づいて骨の強さを判断してきた。比較的,簡単に測定できる骨密度と異なり,何を測れば骨の質の善し悪しを判断できるのかがつい最近までわからなかったのだ。しかし,私たちをはじめとする大勢の研究の積み重ねから,骨質の数値化が可能になった。しかも,その検査法はすでに別の疾患のために日本でも行われている方法をそのまま使える。