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二酸化炭素(CO2)の増加で地球の温暖化が深刻な問題となっていること,本誌やニュースなどでも度々取り上げられているが,そのCO2の影響が海の中にまで及んでいることはあまり知られていない。大量のCO2が海水と反応し,海洋が酸性化しているのだ。
世界の海は人間の活動によって放出されたCO2の約1/3を吸収してきた。海によってCO2の気候への影響はいくぶん緩和されているが,そのために海洋の酸性化という犠牲を払っている。
産業革命以降,海洋表層のpHは0.12下がって約8.1にまでなった。pHは7が中性でそれより低いと酸性,高いとアルカリ性を表し,この数値が小さくなることが酸性化を意味している。0.12の変化はたいしたことのないように聞こえるかもしれないが,pHの値は対数で表されるので,この変化は酸性度が 30%上がったことに相当する。私たちが今のペースで温室効果ガスを排出し続ければ,2100年までに海洋上層のpHは7.7か7.8にまで下がると見積もられている。産業革命以前に比べ,酸性度が150%も上がることになるのだ。
このような急激な変化を現存の生物種は経験したことがない。動物プランクトンのカイアシ類や巻き貝,ウニ,オニヒトデなどは,体のpHバランスを維持することに膨大なエネルギーを必要とするようになり,成長や生殖過程に異常をきたすことが実験から示されている。また,最近,米西岸北部のオレゴン沿岸でカキの幼生の死亡率が上がっており,海洋酸性化が原因ではないかと専門家は疑っている。
このように様々な生物種が短期間で絶滅すれば,海の食物連鎖が崩壊する恐れがある。著者らは,CO2の排出目標を海洋酸性化も念頭に置いて,次の100年でpHの低下が0.1以内におさまるよう設定するのが妥当だと主張している。