1000本のアンテナで南極の空を見る

中島林彦(編集部)
協力:佐藤 薫(東京大学)
201101

日経サイエンス 2011年1月号

10ページ
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 ブリザードが吹き荒れ,冬は太陽が顔を見せない極夜が続き,頭上にオーロラが舞う──。日本が南極観測を始めて半世紀,気象や生物,地質,地磁気などさまざまな観測が行われ,行程数千kmに及ぶ隕石探索や,気候変動の記録を調べる氷床の大深度掘削調査も実施された。そして今,日本の南極観測史上最大のプロジェクト「PANSY(パンジー)レーダー」計画がスタートする。昭和基地の近くに高さ3mのアンテナを約1000本立て,それらを1つの大型アンテナとして稼働させて,上空約500kmまでの大気の動きをまるごとレーダー観測する。
 一般的に雲は高度約10kmまでの対流圏でしか発生しないが,南極上空では対流圏より上の成層圏や,さらにその上の中間圏でも雲が生じる。それぞれ極成層圏雲,極中間圏雲という。それらはオゾン層破壊や気候変動などとつながりがある。PANSYの重要な観測対象になる。
 こうした雲ができる背景には成層圏,中間圏における大気の大循環があり,その大循環を生み出す駆動力は大気中を伝わる波だ。特に「大気重力波」と呼ばれる波の波長は水平方向のスケールでは数十kmから数千kmに達し,高さ方向には上空数十km以上,ものによっては100km以上まで伝わる。温暖化による気候変動は対流圏の話だが,気候変動を正確に予測するには,対流圏より上の大気層での大気重力波の振る舞いを理論モデルにきちんと組み込む必要があることがわかってきた。PANSYはこの大気重力波の観測にも威力を発揮する。
 南極の空は地球環境の変動が真っ先に現れる。PANSYレーダーはその兆しをとらえる“見張り台”だ。発案者でプロジェクトのリーダーでもある佐藤薫東京大学教授の協力を得て,その全容を紹介する。

再録:別冊日経サイエンス195「空からの脅威」に加筆し収録。