自閉症“治療”の危うさ

N. シュート(科学ジャーナリスト)
201101

日経サイエンス 2011年1月号

8ページ
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 社会性やコミュニケーション能力の発達障害といわれる自閉症。自閉症の子どもたちは,会話が困難で対人相互作用に問題があり,手をヒラヒラ振ったり何かを凝視したりするなど,決まった行動や同じ質問を際限なく繰り返す。かつて自閉症はまれな病気だと考えられていたが,1990年代に「自閉症スペクトラム」として定義が広がり診断基準が変わってから,診断数が急増している。
 だが現在,この病気には厳密な臨床治験を通った治療法がない。そのため期待を抱かせるような未試験の代替療法が広がっている。インターネットで検索すれば,お子さんの障害を改善できるとか,治すことさえできるとうたった治療法がたくさん見つかるだろう。そして米国では,実に75%の親が我が子の症状を改善してくれるなら何でもいいから方法を見つけたいという願いに負けて,代替療法を選んでいるという。このような治療法の多くは,安全性や有効性が確かめられていないばかりか,実際には有害なものまである。そのうえ治療費はかなりの高額だ。
 例えば,キレート療法はもともと鉛中毒用の治療法だったが,体内の鉛や水銀,特にワクチンの防腐剤として使われていたメチル水銀が自閉症を引き起こすという考えから,自閉症の“治療”に転用された。だが,これらの金属と自閉症の関連性を証明した研究はなく,自閉症に対するキレート療法の効果が試験で確かめられたこともない。また,この治療法は副作用が深刻で,2005年にはキレート剤を投与された自閉症の5歳の男児が死亡している。さらに,動物実験ではあるが,金属中毒ではないラットにキレート剤を与えたところ,認知能力に問題が現れたという。
 このような危険な代替療法の横行は深刻な問題だが,よい知らせもある。確かな治療法を求める声が高まり,自閉症に対する研究費が増えてきているのだ。さらに,監修を務めた京都大学の十一元三(といち・もとみ)教授が,最近進展してきた薬物療法に関する研究や新たな療育プログラムについて紹介する。