正念場迎えるマラリアワクチン

M. カーマイケル(ニューズウィーク誌)
201102

日経サイエンス 2011年2月号

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この冬,マラリアに対するワクチンの臨床試験が終わる。成功裏のうちに臨床試験を終えるマラリア予防ワクチンはこれが初めてだ。これまでのところ経過は良好で,早ければ2015年にはアフリカで使われることになるだろう。マラリアのワクチンとしてはもちろん,寄生虫に対するワクチンとしても初めてのものだ。

先進国にとっては,マラリアはさほど深刻な疾患ではなくなっているが,世界では今も毎年100万人が命を落としている。犠牲者の多くは幼い子どもや妊婦だ。

グラクソ・スミスクライン(GSK)が20年以上にわたって開発を続けた今回のワクチンは,マラリアの発症率を50%に抑えることができる。他の感染症のワクチンであれば,80%の有効性は必要だが,マラリアにとっては50%でもすばらしい数字だ。50万人の命を救えるのだから。

だが,有効率50%では,マラリアを根絶することはできない。このため,別のアプローチも研究されている。GSKのワクチンはマラリア原虫の表面タンパク質を抗原に使っているが,弱毒性のマラリア原虫を使う方法がある。弱毒化したウイルスを使う生ワクチンの発想に近い。こちらは,臨床試験の初期段階に進んでいる。

もっと奇抜なアイデアもある。まだ動物実験の段階だが,マラリア原虫を媒介する蚊に免疫をつける方法だ。人間にワクチンを接種することで人間の身体に抗体を作らせる。抗体ごと血を吸った蚊の消化管では,この抗体のためにマラリア原虫が蚊に感染できずに死に絶える。

マラリア対策では蚊帳や殺虫剤などもたしかに有効だ。だが,これだけでは根絶は難しい。本当にマラリア根絶を考えるのなら,マラリアに世界の人が関心を持ち続け,ワクチン開発を続けることが,何としても必要となるのだ。