シミュレーションで解く脳の複雑性

C. ジンマー(サイエンスライター)
201104

日経サイエンス 2011年4月号

7ページ
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 私たちの脳の中では数十億のニューロンが絡み合い,ネットワークを構成している。1つ1つのニューロンを見ると,長く伸びた軸索を通じて他のニューロンに接続し,電気信号を送り合っている。だが,これらのニューロンの活動から,どのようにして脳の複雑な機能や精神活動は生じるのだろう?
 個々のニューロンや脳内の一部の領域だけを観察していたのでは,この問題は解けないかもしれない。脳を部分的に調べることは,たった1個の水分子を観察して,水が氷る理由を解き明かそうというようなものだ。「氷」という言葉は,個々の分子スケールでは意味をなさない。氷は無数の水分子の相互作用から生じるもので,全体の水分子が集まって結晶へと変化した状態のことだ。
 だが,どのような方法で研究すれば,脳を大小さまざまなスケールで同時にとらえることができるだろうか。この課題に取り組むため,一部の研究者は,さまざまな分野の複雑性に関する解析手法を取り入れて,脳のネットワーク構造を調べている。コンピューター上に仮想ニューロンを配置してネットワークを構成し,活動パターンをシミュレーションした例や,ニューヨーク株式市場の株価の変動を解析した数学モデルを応用した例などがある。
 これらの研究から,複雑系に共通するネットワーク構造が見つかっており,脳内ネットワークの秘密を探る手がかりとして注目されている。