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米オバマ政権は,宇宙開発の戦略を大胆に転換した。国際宇宙ステーションへの往復など地球周回軌道への人や物資の輸送は民間企業に委ねて,NASAは火星への往還などより研究的なミッションに集中する。近く退役予定のスペースシャトルの後継機を開発するコンステレーション計画は打ち切る。
これまで米国の宇宙輸送機は,NASAの設計をもとに民間企業が建造し,そのコストをすべてNASAが負担していた。コスト削減のインセンティブが働かず,システムは肥大化し,スペースシャトルの打ち上げは1回10億ドル以上かかっている。今後はNASAはミッションに必要な輸送機の要件を示して一定の料金を支払い,設計を含め具体的な建造方法は民間に任せる方式に切り替える。コストを削減できれば,その分はメーカーの利益となる。軌道輸送を実現した初の民間企業スペースXをはじめ,宇宙輸送機を手がけるオービタル・サイエンシズ,ボーイングとロッキード・マーチンの共同出資会社ユナイテッド・ローンチ・アライアンスなど,複数のメーカーが名乗りを上げている。
民間まかせにしたら有人宇宙探査は大きく後退し,取り返しがつかないと懸念する声も強い。だが一方で,新方式によって企業間競争と計画の合理化が進み,宇宙輸送のコストが大幅に下がるとの期待もある。もし軌道往還のコストが格段に下がれば,宇宙でしか作れない材料や医薬品の探索が進み,軌道上での研究開発が加速するとみられる。
さらに重要なのは,宇宙への扉がひと握りの宇宙飛行士だけでなく,より多くの科学者や技術者,さらには宇宙旅行に関心のある一般市民にも開かれる可能性があることだ。ロシアはこれまで7人の旅行者を3000〜5000万ドルの料金で国際宇宙ステーションに運んだ。「もし輸送コストが1回100万ドルに下がれば,数百人が宇宙行きの切符を買うだろう」との予測もある。そうなれば例えば1万分の1の確率で宇宙船の搭乗券が当たるクジを,1枚100ドルで売ることも考えられる。
一方,民間に委ねてもコストが下がらず,市場が拡大しなければ有人宇宙ビジネスはじり貧に陥る。有人宇宙探査が今後発展していくかどうかは,民間に委ねることによって新たに立ち上がる宇宙市場が,順調に発展していくかどうかどうかにかかっている。