審良静男:自然免疫の真の姿を明かす

青木慎一(日本経済新聞編集委員)
201111

日経サイエンス 2011年11月号

6ページ
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生物がウイルスや細菌などから体を守る免疫機構。大きく分けて「自然免疫」と「獲得免疫」がある。病原体が侵入すると,まず自然免疫が働く。人間にも,昆虫など下等な生物にもある仕組みだ。白血球の一種であるマクロファージ(貪食細胞)や樹状細胞などが病原体をのみ込んで分解する。
数日から1週間後に働くのが獲得免疫で,哺乳類などの脊椎動物にしかない。獲得免疫は病原体を個別に記憶し,それぞれ専門の免疫細胞が抗体を出して外敵を撃退する。例えば麻疹や水疱瘡(みずぼうそう)などに2回かかることがほとんどないのは獲得免疫のおかげだ。ワクチン接種は無毒化した病原体の一部を使って,獲得免疫系に敵を教えることで,即座に対応して病気を防げるようにする。
この獲得免疫の仕組みは研究者の関心を集め,長い間,研究の中心になってきた。1987年のノーベル生理学・医学賞を受けた利根川進(理化学研究所脳科学総合研究センター長)の「抗体遺伝子の再編成の研究」も獲得免疫がテーマだった。これに対し,自然免疫は病原体も細胞のかけらも見境なく食べてしまう原始的な免疫機構とされ,研究者の関心は薄かった。免疫学の教科書の中には「自然免疫は免疫機構ではない」という記述もあったくらいだ。
この常識を覆したのが審良だった。審良は,原始的とされた自然免疫機構が病原体の種類を見分けるセンサーを持ち,獲得免疫を担う細胞に指令を出して攻撃させていることを突き止めた。マクロファージはセンサーによって戦う相手を見極めると,即座に情報伝達分子(サイトカイン)を出して仲間の免疫細胞に指令を送り,病原体との戦いを始める。ただ病原体を丸のみするだけだと思われてきたマクロファージが免疫機構の司令塔の役割を果たすことがわかり,世界が注目する研究分野になった。