平面国の量子重力

S. カーリップ(カリフォルニア大学デービス校)
201207

日経サイエンス 2012年7月号

10ページ
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 現代物理学の究極の目標は万物を1つの理論体系で説明すること。万物は4つの力で相互に関係づけられている。これらのうち電磁気力と原子核内部で働く2つの力は量子力学の枠組みで理解されており,唯一の仲間はずれが重力だ。だから重力を量子力学の枠組みの中入れること,つまり量子重力の理論ができれば,究極の理論の実現に大きく近づく。しかし,これが難しい。重力を記述する一般相対性理論は,量子力学との相性が非常に悪いからだ。ここ数十年,世界の理論物理学者が量子重力の理論に挑んできたが,いまだに果たせずにいる。それが近年,新たなアプローチから迫ることで,難問解決に光明が見え始めた。
 その1つのアプローチは空間の次元を1つ落とした世界,つまり2次元の平面世界における量子重力を考えることで,量子重力の本質に光を当てる試みだ。実は平面世界では重力波や重力子は原理的に存在できないので,量子重力を議論する余地などないと考えられてきた。ところがトポロジー(位相幾何学)という数学の概念を導入して考えると,重力の存在によって平面世界の全体的な構造が変化することがわかってきた。つまり平面世界で重力を量子化するということは,その世界全体の構造(それは連続的な値をとる1つのパラメーターで表される)の量子化を意味する。この知見を実世界の量子重力理論にどう生かすか,世界各地で研究が進んでいる。