恐怖の記憶を消す薬

J. アドラー(サイエンスライター)
201208

日経サイエンス 2012年8月号

8ページ
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 事故に遭ったり,暴力を受けたときの恐怖の記憶に長い間苦しむ人がいる。忘れたくても忘れられず,大きな音を突然聞いたことなどをきっかけに,つらい記憶が鮮明によみがえってパニックを起こすケースもある。現在は心理療法で苦しみを緩和するアプローチが中心だが,将来は薬で,つらい記憶そのものを消せるかもしれない。脳科学では記憶のメカニズムが熱心に研究されており,その知識を使うのだ。実際,ラットの実験では,記憶保持に重要な役割を果たす酵素の働きを抑える物質を投与して,記憶を消すことに成功している。ただ現時点では特定の記憶を選択的に消すことはできない。記憶を書き換えるアプローチもあり得るという。