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この記事は2012年のノーベル生理学・医学賞に決まったJ. B. ガードン博士がE. M. デ・ロバーティス米カリフォルニア大学ロサンゼルス校教授と共同執筆した記事の再録である。今回の最大の授賞理由となった体細胞核の遺伝子発現をリプログラミング(初期化)した実験は,アフリカツメガエルの小腸の細胞から核を取り出し,あらかじめ核を破壊しておいた卵に移植したところ,卵が正常に分裂してオタマジャクシを経てカエルに成長したというもので,細胞分化についての考え方を根本的に変えた。それ以前は,受精卵が様々な細胞に分化していく過程で,その細胞に必要でない遺伝情報は失われてしまうと考えられていたのに対し,細胞は遺伝子をすべて保持しつつ,その発現のパターンを変えていることを実証した。
記事ではこのほか,遺伝子の発現がどのように調節されているかを,卵細胞を“生きた試験管”として利用することで探るアプローチが詳しく述べられている。30年以上前の記事だが,翻訳にあたった江口吾朗・尚絅学園顧問(当時は名古屋大学教授)は「現在の目で見ても,修正すべきところがほとんどない」と話している。
*本記事はサイエンス(日経サイエンスの前身)1980年2月号に「遺伝子移植で発生をさぐる」と題して掲載。今回の再録にあたり改題し,本文の一部を修正しました。