特集:「限界」を科学する
量子の限界を覆す

D. ドイチュ
A. エカート(ともに英オックスフォード大学)
201212

日経サイエンス 2012年12月号

7ページ
( 6.3MB )
コンテンツ価格: 611

 量子力学はかつて,限界を語る理論だと考えられていた。量子力学が支配する原子や電子などは,古典力学で慣れ親しんできたボールのようには扱えない。測定は不確定性原理によって制約を受け,起きる事象はランダムで制御できない。半導体の微細化が進んで量子力学の領域に至ると,情報技術は壁に突き当たると懸念されていた。

 だが実際には,そうした障壁は存在しない。それどころか,量子力学はこれまであると思われていた限界を解き放った。物体に備わった「重ね合わせ」や「不連続性」といった量子的な性質は,情報技術に限界を課すものではなく,むしろリソースになる。

 また量子力学は,数学や論理といった抽象的な分野にも新たな可能性を開く。数学的な真実は物理学とは独立に存在するが,我々がその知識を得るプロセスは物理過程だ。何を知ることができるかは,物理法則によって定まる。量子力学は基本の論理的操作を広げ、それによって数学もまた変わるだろう。