不老不死のクラゲを育てる

久保田 信(京都大学)
201307

日経サイエンス 2013年7月号

4ページ
( 2.1MB )
コンテンツ価格: 500

年を取ったり傷を負ったりすると若返りが始まり,再び赤ちゃんに戻る
そんな不老不死のクラゲの秘密を解き明かせば
将来,人間も不老不死を獲得できるかもしれない

 紀伊半島南西にある和歌山県田辺湾は海洋生物の宝庫だ。温帯性の生き物に加えて,黒潮が亜熱帯さらには熱帯の生物を運んでくる。この湾口の南端に緑に包まれた小高い番所崎があり,その麓に京都大学の臨海実験所がある。分類学者の久保田信はここで20年以上毎日,海辺を歩いて漂着生物などを調べ,クラゲ,それも不老不死のクラゲの研究に熱中している。(文中敬称略)

 不老不死クラゲの名前はベニクラゲ。体長わずか数mm,半透明の白い身体で,傘の中心部が紅色に染まっていることからこの名が付いた。多細胞生物の中で現在,不老不死が確認されているのはベニクラゲとヤワラクラゲで,後者の不老不死性は久保田が発見した。
 久保田の生活はベニクラゲとともにある。朝,海を望む研究室に着くと,ベニクラゲや,クラゲに成長する前のポリプを育てているシャーレを冷蔵庫から取り出し,顕微鏡で健康状態を観察する。現在,シャーレの中で暮らしているベニクラゲ(今の季節はポリプ)は福島と,臨海実験所近く,沖縄,イタリアで採集された4種類。彼らが元気であることを確認すると,けし粒より小さな甲殻類の孵化したばかりの幼生をエサとして与える。1mmにも満たない小さな個体には,顕微鏡で見ながらエサとなる幼生を針でちぎって与える。水の取り替えもきめ細かく行う。
 1年365日そうした作業を続ける。海外出張の際も保冷したシャーレを機内に持ち込み,ホテルで作業をする。ベニクラゲたちは南アフリカや中国,イタリアなど,久保田とともに世界を旅行している。