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第42回「夢に見たもの」を脳画像からつきとめる:神谷之康

永田好生(日本経済新聞編集委員)
201409

日経サイエンス 2014年9月号

4ページ
( 1.8MB )
コンテンツ価格: 509円 (10%税込)

最新の脳計測技術を駆使して何が夢に出てきたかを見いだす
まるでフィクションのような新技術は
身体を介さない新たなコミュニケーションの道を開くかもしれない

 脳の活動パターンを解読して睡眠中に見ていた夢の内容を解読──。Science誌が2013年に掲載した論文は,フィクションと考えられていた技術が間近に迫っていることを示し,世界の注目を集めた。研究を率いた国際電気通信基礎技術研究所(ATR)脳情報研究所神経情報学研究室長の神谷之康は「BMI(ブレイン・マシン・インターフェース)を駆使した新しい情報通信が近い将来,実現するだろう」と展望する。 (文中敬称略)

 京都府精華町にあるATRの一室。大きなガラス窓の向こう側にドイツ・シーメンス社製のfMRI(機能的磁気共鳴画像装置)が据えられている。3テスラの強磁場を作り,脳の中で活発に活動している部位を可視化する装置で,今回の実験のカギとなった。
 「夢の解読は3人の被験者に協力してもらい実現できました」と,神谷は説明を始めた。人間は古来,夢の内容に関心を抱いてきた。夢占いや夢判断に関する書物は多い。しかし自然科学の対象としては極めて扱いにくい。夢の内容は外部から操作するのは難しいし,夢を見ている時の脳活動を観察する方法は確立していない。神谷はそんな夢の内容を解読する技術の開発に手探りで取り組んだ。