特集:重力波
ビッグバンから上がるのろし
原始重力波に挑む

L. M. クラウス(アリゾナ州立大学)
201605

日経サイエンス 2016年5月号

10ページ
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重力波望遠鏡LIGOが重力波を直接観測したことで改めて注目されそうな分野がある。「原始重力波」だ。LIGOや日本の重力波望遠鏡KAGRAが狙う重力波は物質の加速度運動によって生じるタイプ。ブラックホール連星の合体や中性子星連星の合体は超高密度で大質量の物質が激しく動くため大きな重力波が出る。一方,原始重力波は個別の天体現象で生じるのではなく,宇宙誕生直後に起きた宇宙自体の爆発的急膨張「インフレーション」で生じる。宇宙そのものが超微小であった時,量子揺らぎによって空間に歪みが生じ,インフレーションと,その後の宇宙膨張によって数十億光年以上もの天文学的サイズにまで引き伸ばされ,現在に至るまで宇宙全体を伝わっていると考えられている。波長が数十億光年から100億光年にも達する原始重力波の直接検出はできないが,痕跡は捉えられる可能性がある。宇宙誕生から約38万年後に放出された宇宙マイクロ波背景放射(CMB)は全天から地球にやって来ていて,到来方向によってマイクロ波の振動方向に偏りがある(偏光という)。そこで到来方向ごとにCMBの偏光の向きを調べ,その天球マップを作ると,原始重力波が存在した場合,「Bモード偏光」と呼ばれる渦巻き状の特徴的なパターンが表れる。2014年3月,南極にあるBICEP2望遠鏡が,このCMBのBモード偏光を捉えたとの発表があった。その後さらに地上観測が行われ,天文衛星プランクの観測データの解析も進んだ結果,BICEP2が捉えたBモード偏光は天の川銀河の塵(星間塵)によって生み出されたものだとする研究結果が2015年1月に公表された。BICEP2の発見は否定されたが,これは理論的に予想される原始重力波の存在自体を否定するものではない。日米欧の研究グループはより高感度の望遠鏡を用いて,星間塵由来のノイズに埋もれていると考えられる原始重力波の信号の検出に取り組んでいる。