特集:若冲の科学
「若冲の青」を再現する

古田彩(編集部)
協力:田中陵二(化学者)
浅野信二(画家)
201710

日経サイエンス 2017年10月号

7ページ
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コンテンツ価格: 600

 今世紀初め,伊藤若冲の代表作『動植綵絵』の大規模な修理が行われ,その際に実施された調査によって,思いもかけない事実が明らかになった。うち1幅に,当時西欧から入ってきたばかりの世界初の人工顔料,プルシアンブルーが使われていたのだ。1766年に描かれたとみられる「群魚図」の中のルリハタの絵である。

 日本の絵画にプルシアンブルーが用いられたのはそれまで,平賀源内が1770年代前半に描いた油彩「西洋婦人の図」が最初だと思われていた。源内と違って西洋の技法や素材にあまり縁のない若冲が5年以上も前に使っていたことは,驚きをもって受け止められた。

 今回,化学者・田中陵二氏と画家・浅野信二氏の協力を得て,若冲が用いた「青」の再現を試みた。プルシアンブルーは18世紀初め,染料・顔料業者のディースバッハが赤い顔料を作ろうとして,材料の中に,錬金術師のディッペルから借りた動物の骨や血液が混ざったアルカリを投じたことで偶然生じたことがわかっている。当時の製法で動物の肉からプルシアンブルーを作り,ルリハタを描いてみた。