特集:エッシャーを超える
2次元と3次元を旅する 自然界のエッシャーたち

近藤 滋(大阪大学)
201808

日経サイエンス 2018年8月号

6ページ
( 3.0MB )
コンテンツ価格: 611円 (10%税込)

 エッシャーの《描く手》 は,紙に描かれた左右の手が立体化し,互いに相手を描いている,という摩訶不思議な作品だ。エッシャーの作品の中でも,特に人気が高く,よく展覧会のポスターや作品集の表紙に使われているので,記憶しておられる方も多いだろう。本稿ではこの《描く手》を題材にして,エッシャーのトリックを探っていくのであるが,特に着目したいのが,中央を斜めに走る影である。さりげなく描いてあるので見逃してしまいそうだが,よく考えるとなんだかおかしい。これはいったい,何の影なのだろう? どうして,こんなところに影があるのだろうか? その理由を探っていくと,トリックの完成度を上げるための,エッシャーの緻密な計算が浮かび上がってくる。さらに,そうしたトリックは,エッシャーだけのものではない。自然界における動物たちもまた,同じトリックを進化の過程で獲得することで,これまで生き抜いてきたのである。