特集:科学書に見る知の源流
「プリンキピア」を読み解く

山口敦史(金沢工業大学)
201810

日経サイエンス 2018年10月号

9ページ
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 金沢工業大学のライブラリーセンターの奥深くに,私たち教員もめったに入ることのない小さな書庫がある。「工学の曙文庫」と呼ばれるその書庫には,科学技術において歴史的に重要な発見・発明を著した書物の初版本が約2000冊保管されている。ある日,会議のあとで,大澤敏学長からこう言われた。「うちの大学には歴史的に貴重な本がいっぱいある。これからは教員が中身をきちんと読んで,その内容を社会に発信していくことにしたい」。さらに続けて「君は電気電子工学科だから,ファラデーとかクーロンとか,電気に関連する著作を読んでくれないか」。私はすかさず,「ニュートンの『プリンキピア』を読ませてくれませんか」と答えた。

 私は電気電子工学科の教員だが,もともと物理学を専攻し,現在も半導体の物理を研究している。そして,物理学こそがすべての自然現象を支配する最も根本的な学問である,という感覚が,(正しいかどうかは別にして)身にしみついている。近代科学の第一歩とされるニュートンのプリンキピアは,物理学者を志した高校生の頃より,憧れに近い本だった。何かを読むことになるのなら,絶対にプリンキピアを読んでみたいと思った。とはいえ,その時点ではプリンキピアの具体的な中身については全く知らなかった。

 プリンキピアは運動法則を示したことであまりにも有名だが,それはいったいどのように記述されているのだろうか。リンゴのエピソードで有名な万有引力は,どのように導かれたのか。ニュートンは自ら打ち立てた科学について,どのように考えていたのか。大いに興味をかきたてられた。本稿ではプリンキピアを,現代の一物理学者の視点からたどっていきたいと思う。