特集:神経免疫学
精神疾患の新しいモデル ミクログリア仮説

加藤隆弘
神庭重信(ともに九州大学)
201901

日経サイエンス 2019年1月号

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 統合失調症やうつ病などの精神疾患の原因を説明するモデルとして,ドーパミン仮説やセロトニン仮説が長年提唱されてきた。これらはニューロンのシナプス間で生じる神経伝達の異常に焦点を当てた仮説で,これらに基づた治療薬の開発がなされてきた。最近,こうした従来の仮説に加えて,炎症が精神疾患に関与するという考え方が注目されている。著者らは,脳内免疫系に重要な役割を担うミクログリア細胞に着目した精神疾患のモデル「ミクログリア仮説」を提唱。仮説の実証と治療のためのトランスレーショナルリサーチに取り組んでいる。
 2000年頃から精神疾患患者の死後脳研究から脳内ミクログリア細胞の過剰活性化を示す病理的特徴が報告されるようになった。ドイツ・マクデブルク大学のシュタイナー(Johann Steiner) 博士らは,統合失調症やうつ病の患者の中でも,自殺した人の脳でのミクログリアの活性化が顕著だったいう報告をしている。その後,PET(陽電子断層撮影)技術を用いることで,生きているヒトの脳内でのミクログリア活性化を部分的に評価できるようになり,国内外で統合失調症患者のミクログリア過剰活性化が国内外で報告されるようになった。さらに最近では,うつ病患者や自閉スペクトラム症患者の脳内においてもミクログリア過剰活性化が報告されている。
 ミクログリア活性化は年齢によって異なり,活性化ミクログリアの脳内の局在の違いもあるため,表れる精神疾患や引き起こされる精神症状が異なると考えられる。ミクログリア過剰活性化によりニューロン,シナプス,オリゴデンドロサイト,さらには神経新生さえも傷害されることが齧歯類では知られており,特定のヒト・ミクログリアの活性化により,特定の神経シナプスの活動性が変容することで,最終的に特定の精神病態を呈するのではないかと,著者らは考えている。