特集:実験で迫る量子世界の深奥
波動関数の収縮は 物理現象か?

T. フォルジャー(科学ジャーナリスト)
201908

日経サイエンス 2019年8月号

8ページ
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 一部の物理学者は,波動関数の収縮は実際に起こっている物理現象であり,測定可能な効果を伴っていると考えている。その1つに「連続的自発的局在化(CSL)」という考え方がある。CSLによると,波動関数の収縮はミクロ世界で絶えずランダムに発生している事象だ。ある1個の粒子の波動関数が収縮する確率は極めて小さいが(おそらく数億年に1回だ),膨大な数の粒子が集まった系では確実に収縮が起こる。


 CSLが本当ならば,観測自体は収縮には何の影響も及ぼさない。どのような観測であれ,測定される粒子と測定する装置は巨大な量子系の一部となり,即座に収縮する。粒子は観測の間に量子的な重ね合わせから古典的な確定した状態に移行したかのように見えるが,移行は粒子が装置と相互作用した瞬間に起きており,観測されるのはその後だ。


 オランダのデルフト工科大学のグレブラッハー(Simon Groblacher)らは,肉眼でやっと見えるサイズの窒化ケイ素の膜にレーザーを照射し,同時に2つの異なる振幅で振動する量子的重ね合わせにする実験を計画している。数分間振動し続ける間に,原理的には,重ね合わせが単一の古典的状態に収縮するかどうか,するならいつ何が起こるかを観察することができる。あるスケール以上では量子効果が起こらないように自然が監督する何らかの仕組みがあるかどうかを検証する狙いだ。