特集:真実と嘘と不確実性
物理学におけるリアリティー

G. マッサー(SCIENTIFIC AMERICAN 編集部)
201912

日経サイエンス 2019年12月号

7ページ
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 物理学は人間の活動の中で,「真実」がクリアカットな唯一の領域だと思われている。いわく,物理法則は確固たる現実を記述する。厳密に数式で定義され,実験による裏付けもある。果てしない混乱ではなく,きちんとした答えを与えてくれる。あなたにはあの物理,私にはこの物理ということはなく,誰にとってもどこであっても,同じ1つの物理が当てはまる。

 物理学がほとんどの人にとって最も純粋に真実を追究する学問に見えているとしても,物理学者自身は必ずしもそう思っていない。物理学者はときに,“集団的インポスター症候群”(周囲から高く評価されても自分はそれに値しないと感じる心理傾向のこと)に陥っているように見える。もちろん真実がそこにあり,それを見つけられると思ってはいるのだが,疑念も抱いている。こうした不安は,基礎物理学の分野で顕著に見られる。最も揺るぎなく確立している理論においてさえ,「真実」はとらえどころがない。