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グーグルが量子コンピューターで世界最速のスパコンにもできない計算を実行し,「量子超越 」を達成したと発表した。「地球上にあるどのコンピューターよりも量子コンピューターのほうが圧倒的に速い」というタスクが,少なくとも1つは見つかったのである。今回あくまで量子超越を実証するためのベンチマークテストだが,この計算能力を科学的・産業的に意味のある他のタスクにも活用することができるかもしれない。一体どんなタスクなら量子コンピューターの強みを活かせるのか。
量子コンピューターの性質上,計算結果の全体を知ろうと思ったら,同じ計算を何度も繰り返す必要がある。例えば,50量子ビットの量子チップで計算し,1000兆通りのビット列が同じ重みで重ね合わさっているという答えが得られた場合,それをすべて知るには1000兆のさらに数百倍程度の試行と測定を繰り返す必要がある。現在主流の超電導量子ビットなら1000兆回の測定には30年ほどかかり,その数百倍というのは現実的な数字ではない。
だが計算結果の一部分,例えば「適当な量子計算を実行した後,○番目の量子ビットが1になる確率はいくつか」といった情報を得るだけなら,話は別だ。ずっと少ない回数で精度のよい結果(この場合は50%)が得られるだろう。つまり,重ね合わせになった莫大な情報のうちの一部を限られた精度で取り出すだけで意味があるような応用先があれば,量子コンピューターで速く実行できる可能性があるということだ。そして現在,実際にそのような応用先として最も注目を集めている分野が,量子力学のシミュレーションと機械学習である。