特集:太平洋に消えた巨大島
海底探査が明かす太古のドラマ

佐野貴司(国立科学博物館)
202009

日経サイエンス 2020年9月号

8ページ
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 2009年9月,私は横浜港から出発した米国の深海掘削船ジョイデス・レゾリューションに乗り込み,日本から約1500kmの東方沖へと向かっていた。総勢32人の国際研究チームで,太平洋の深海底から突き出した広大な台地「シャツキー海台」の掘削調査を行うためだ。シャツキー海台は南から北に向かってタム,オリ,シルショフと名付けられた3つの山塊が並ぶ,巨大火山の集合体だ。私は地球物理学者のセーガー・テキサスA&M大学教授(現ヒューストン大学教授)とともに,この調査の共同首席研究者を務めていた。

 太平洋の海底にはほかにも数多くの海台が存在する。グーグルマップの「空中写真」アイコンをクリックすれば,特に西側のあちこちに,広大な台地があることに気づくだろう。多くはかつて海面に顔を出し,太平洋に浮かぶ巨大な島々を形づくっていた。

 だがそれらの島々は,現在はもう存在しない。長年にわたってわずかずつ沈降し,数千万年前までにすっかり海中に没してしまったからだ。巨大海台はどのように生まれ,沈んでいったのか。海底地形の探査と深海底の掘削調査から見えてきた太古の地球8の姿と沈降のメカニズムを紹介しよう。