特集:長期化するCOVID-19
ワクチンの実力

出村 政彬(編集部)
202012

日経サイエンス 2020年12月号

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 私たちの生活にはマスクの着用やテレワーク,イベントへのオンライン参加といった感染拡大を防ぐ取り組みが浸透しつつある。ワクチンの開発は流行の初期から期待されてきたが,もし治験が成功して実用化されればマスクやソーシャル・ディスタンシングはもはや必要なくなり,以前の日常が戻ってくるのだろうか? 残念ながら答えはノーだ。ワクチンで何ができて,何ができないのか。新たな武器の特性を慎重に見極め,COVID-19との戦いに活かす必要がある。

 そのためには,新型コロナに限らず,そもそもワクチンがどんな働きをするものなのかを再確認しておきたい。麻疹や風疹のワクチンでは子どもの頃に予防接種をすれば,その後長期にわたって病気にならずに済む。しかしインフルエンザのワクチンでは「打ったのにかかってしまった」というケースが少なくない。同じワクチンなのに,この違いは何なのだろうか。実は,ワクチンには「発症予防」の効果を持つものと「重症化予防」の効果を持つものがある。この2つのワクチンでは,誰に接種すべきかという接種の方針も変わってくる。そして,COVID-19でまず実現するのは重症化予防のワクチンだと考えられている。

 また,開発の状況を理解するには,COVID-19のワクチンが現在主に2つの手法で開発されていることも大事なポイントだ。1つは,新型コロナウイルスの設計図であるDNAやRNAを直接ワクチンとして使う手法だ。開発スピードが速いことが利点だが,近年登場した新たな手法なのでまだ他の病気で実用化した例がない。もう1つはウイルスの粒子やタンパク質をワクチンに使う従来の方法で,開発に時間がかかるが実績がある。

 現在治験が最終段階まで進んでいるワクチンは,前者のDNAやRNAを使う手法で開発されたものだ。有効性や安全性を慎重に検証していく必要があるが,各国の政権によってワクチンが政治利用されると厳密な検証ができなくなる恐れがある。ワクチンの有効性と安全性の判断は,どんな状況でも科学によって下される必要がある。