特集:ヒトバイローム ウイルスの“化石”ががんを抑える

古田 彩(編集部) 協力:伊東潤平
佐藤 佳(ともに東京大学)
202107

日経サイエンス 2021年7月号

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人類はその進化の歴史の中で,何度もウイルスの攻撃を受けてきた。我々のDNAには,太古の昔に霊長類の祖先に感染した,ある種のウイルスの遺伝子配列の痕跡が刻まれており,これを「内在性レトロウイルス」(ERV)と呼ぶ。今はもうウイルスを作り出すことはなく,いわば過去のウイルスの「化石」である。

 最近,東京大学医科学研究所の伊東潤平特任助教と佐藤佳准教授らの研究グループが,このERVに意外な働きがあることを見いだした。がん細胞の増殖や転移に関わる遺伝子を抑制するタンパク質の産生を促し,患者の予後の改善に寄与していることが,遺伝子データの解析と細胞実験によって示された。

 かつて我々の祖先を悩ませたウイルスの化石が,その後の変異と自然選択によって人類の生存に寄与するように変化したらしい。ヒトとウイルスの関係の知られざる側面を探った。