創刊50周年企画 極限微生物が変えた進化観 深海に探る生命の起源

高井 研(海洋研究開発機構)
202201

日経サイエンス 2022年1月号

8ページ
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 1920年代に,ソ連(現在のロシア)のオパーリン(Aleksandr I. Oparin)とイギリスのホールデン(John. B. S. Haldane)はそれぞれ,「生命は有機物のスープから生まれた」という仮説を提唱した。これを機に,それまではどちらかといえば哲学的な対象として捉えられていた「生命の起源」に関する命題は,近代科学の研究対象へと変貌した。その後約100年に及ぶ生命の起源研究の到達点として,「太古の地球のどこでどのように生命が誕生したか」に対する答えは,現在2つのシナリオへと集約されつつある。

 ひとつは,約40億年前の冥王代における地球の深海熱水環境において,熱水中での多様な非生物学的有機物生成反応や,熱水域での自然発電現象に伴う電気化学的な原始的代謝の成立を通じて,自ら栄養物を作り出す独立栄養的生命が誕生したとするシナリオ。もうひとつは,冥王代の地球に宇宙から持ち込まれたか,あるいは冥王代地球の大気および陸環境において生成された様々なエネルギー源や生体材料が最終目的地である陸上温泉域に集積し,そこでの統合的な化学進化を通じて従属栄養的生命が誕生したとするシナリオである。

 現時点ではどちらのシナリオが正しいかを結論づけるのは科学的に不可能であり,今後の研究成果や新しいアプローチによる展開が待たれるところである。本稿では,約100年間の生命の起源研究が大きく進展する転機となった1960年代から1970年代にかけての極限環境微生物の発見とその研究の世界的隆盛,そしてその扉を開いた日本人研究者の足跡について概説しながら,そこから生まれた最新の研究や未来の研究の方向性について紹介したい。