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わずか17年で,mRNA(メッセンジャーRNA)医薬は概念実証の段階から世界を救うものへと発展を遂げた。ファイザー・ビオンテック製およびモデルナ製のCOVID-19ワクチンは,何億人もの人々に投与され,数え切れないほどの命を救っている。
2005年にカリコー(Katalin Kariko)と私は,動物の組織に注入したときに危険な炎症を引き起こさないmRNA分子を作る方法を考案した。2017年にはパルディ(Norbert Pardi)と共に,修飾したmRNAを脂質膜に似たナノ粒子で包んでヒト体内の目的細胞に送達させた。このmRNAは体内で分解されずに免疫系を刺激し,実際の病原体に感染した時よりもずっと効果的に,侵入してきたウイルスを中和する抗体ができることを私たちは実証した。ファイザー製ワクチンとモデルナ製ワクチンはどちらも,このmRNA・脂質ナノ粒子(mRNA-LNPと呼ばれる)をプラットフォームとして採用している。大規模な臨床試験では,ワクチン接種者の90%以上で発症を防いだ。
mRNA医薬の応用先は新型コロナワクチンだけにとどまらない。がんやアレルギーの治療を目指すmRNAワクチンの研究が進んでおり,病気の治療に必要なタンパク質をmRNAの投与によって体内で作る方法も試みられている。mRNA医薬は侵襲性とコストの低い高度な医療を提供し,世界の医療の公平性を大幅に向上させる可能性がある。