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従来の生物学の常識に従えばウイルスと細菌は大きさで区別できる。ざっくりいえば0.2μm,およそ髪の毛の太さの1/500より大きいと細菌で,それ以下がウイルスだ。浄水器が0.2μm以上の微粒子を濾過するタイプが多いのは,病原菌はもちろん全ての細菌を除去できるとされるからだ。一方,濾過した水の中にはウイルスだけが残ることになる。ウイルスが濾過性病原体と呼ばれるゆえんだ。
また0.2μmは光学顕微鏡で直接見える限界でもある。つまり細菌は観察できるが,ウイルスは捉えることができない。ウイルスを見るには光学顕微鏡より分解能がはるかに高い電子顕微鏡が必要になる。
この常識が大きく揺らいだのは2003年。0.4μm以上もある「ミミウイルス」が発見されたのだ。実はこのウイルスはその約10年前,英国の病院の空調設備の冷却水から見つかっていたが,細菌の新種だと思われていた。
「ウイルスは0.2μm以下であり,光学顕微鏡で見えるはずがないという強い固定観念が研究者の目を曇らせていた」と自然科学研究機構生命創成探究センター(愛知県岡崎市)の特任教授を務める村田和義は話す。
本記事では巨大ウイルス第1号となったミミウイルスが生物学に与えたインパクトを述べた後,特に村田が深く関わっている2種の巨大ウイルス,「メドゥーサウイルス」「ピソウイルス」の研究成果を紹介する。これら2種のウイルスは多くの驚きに満ちており,謎に包まれたウイルスの起源を探る新たな手がかりを提供している。