特集:デマを見破る メディアリテラシー教育 手探り続く米国の苦悩

M. W. モイヤー(SCIENTIFIC AMERICAN 編集部)
202207

日経サイエンス 2022年7月号

6ページ
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 教師歴20年のガードナー(Amanda Gardner)は昨年,シアトル郊外で特別認可小中学校(チャータースクール)の開校に携わった当初,「ホロコーストなんてなかった」「新型コロナはでっちあげ」「2020年の米国大統領選には不正があった」などと主張する生徒たちを教えることになるとは思っていなかった。しかし一部の生徒は実際,そうした怪しげな陰謀論を信じていた。

 単純な間違いなどの「誤情報」とミスリードを狙った「偽情報」はどちらも,「過去10年から20年で生徒たちに大きな影響を与えるようになった」とガードナーはいう。子供はフェイクニュースの格好の標的になっている。2021年9月のBritish Journal of Development Psychology誌に掲載された研究によると,根拠のない陰謀論的な考えを信じるようになるのは14歳からだ。そして多くのティーンエイジャーが,ネット情報の信頼性をうまく評価できずにいる。米国の中高大学生8000人近くを対象にスタンフォード大学の研究チームが行った2016年の調査では,中学生の80%超が,スポンサーつきコンテンツと表示された広告をニュース記事だと信じていた。また高校生のうち,ソーシャルメディア上のまことしやかな主張の真偽を本気で疑った生徒は20%に満たなかった。

 偽情報キャンペーンは若者を直接に狙って,誤ったコンテンツに誘導する例が多い。2018年のWall Street Journal紙による調査は,ユーチューブが個々のユーザーに次に見るべき動画を提示する「おすすめ」アルゴリズムに偏りがあり,ユーザーが以前に見た動画よりも極端で牽強付会な動画を薦めていることを見いだした。例えば「月食」をキーワードに検索すると,地球は平らであると示唆する動画に誘導された。

 この問題に対処するために学校ができることのひとつが「メディアリテラシー教育」だ。受け取ったメッセージを批判的な目で吟味し,真実を装った偽情報に気づく方法を子供たちに教えようというものだ。親が陰謀論を信じ偽情報などのデマにあおられている場合,子供にそうした怪しい主張を客観的に評価する方法を教えることができるのは学校となる。