特集:量子コンピューター最大の壁「エラー訂正」 量子コンピューターの究極の目標

藤井啓祐(大阪大学)
202208

日経サイエンス 2022年8月号

10ページ
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 今や,量子コンピューターという言葉を,新聞や雑誌で見ない日はないくらいである。グーグルやIBMといった名だたるIT企業や各国の研究機関が量子コンピューターの開発にしのぎを削り,我が国でも理化学研究所の量子コンピュータ研究センターを中心に参戦している。今ではクラウドで量子コンピューターの実機をプログラムし,計算結果を受け取ることもできるようになった。そんなニュースを見聞きしていると,量子コンピューターはすでに実現し,明日にでも生活に使える時代になったと思うかもしれない。しかしながら,量子コンピューターの一大ブームとも言える現在の状況は,私を含めこの分野の研究者たちにとっては予想外であった。実のところ,つい5年前くらいまで私たちは,この段階の量子コンピューターがここまで広く話題になるとは想像もしていなかった。

 理由は,現在実現している量子コンピューターは,実用的な問題を解くという点では,いまだスーパーコンピューターに勝てていないからだ。こう言うと,もう3年も前にグーグルの量子コンピューターが世界最速のスパコンを打ち負かしたではないか,と思う人もいるだろう。それはその通りだが,あれは量子コンピューターにとって圧倒的な有利な,特殊な問題を計算させる競争であった。新材料の機能予測や機械学習といった皆が量子コンピューターに期待している計算は,今もスパコンのほうがはるかに速い。